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東京地方裁判所 昭和38年(モ)2713号 決定 1963年3月08日

別紙申請書記載のとおり

申立人等は、被申立人等を債権者とし申立人等を債務者とする東京地方裁判所昭和三八年(ヨ)第五二三号不動産仮処分申請事件について当裁判所が同年二月二七日にした仮処分決定に対し、異議を申立て、且つ、その執行の停止を申立てたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

申立人等の申立を却下する。

申立費用は申立人等の負担とする。

理由

申立人等の申立の趣旨及び理由は別紙申請書記載のとおりである。

本件仮処分がいわゆる断行の仮処分であつて、被申立人等が本案訴訟に勝訴しそれが確定した後その執行を行つたと同様の終局的満足を被申立人等に与えるものであることは、申立人等の主張のとおりである。しかしながら仮の地位を定める仮処分制度の目的から見て、当該仮処分が断行の仮処分であるということだけで、これに対して異議の申立をすれば直ちにその執行停止を求めることができるものと解するのは相当でなく、当該仮処分の執行により債務者に償うことのできない損害を生ずる惧のある場合に限り、応急の暫定措置として、その執行の停止を求めることができると解すべきものであると考える。申立人等が本件仮処分決定により退去及び収去を命じられている建物部分は、これと一体をなす申立人等の所有し、占有する延九八坪七合の建物の約二分の一にあたる部分であつて、本件建物部分が収去されても、申立人等は残余の建物部分において従前の飲食店営業を継続することは可能であると推認され、本件仮処分決定の執行によつて申立人等が深刻な損害を受けるとしても、その生存乃至生活が直接脅やかされるような危険はなく、その損害も営業規模が縮少されることによつて生ずる損害であるから結局金銭の保証によつてその満足を達し得る性質のものであると認められる。しかして、本件仮処分には申立人等の共同保証として、金三百万円が供託されており、被申立人等は日本国有鉄道と帝都高速度交通営団であるから、将来、申立人等の損害賠償請求権が確定した場合には被申立人等においてその支払いの責に任じ得ることは明らかである。これらの点からすれば、申立人等が本件仮処分の執行によつて償うことのできない損害を受けるものであるとは認められないので、本件申立はこの点において理由がない。なお、申立人等は仮処分の必要性を問題にしているが、仮処分の必要性の有無は異議訴訟で審理さるべき事項であつて必要性の欠缺は執行停止を理由あらしめる諸事由の一つにすぎず、その欠缺が特に顕著な場合はしばらく別として、一般には必要性の欠缺を理由として執行停止を求めることはできないと解するのが相当である。本件においては、仮処分の必要性の欠缺を疎明するに足る顕著な事由は何等見当らないので、この点の申立人等の主張も採用できない。

右のとおりで、本件仮処分の執行停止の申立はその理由がないことに帰するからこれを却下すべく、申立費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石井良三 裁判官 小堀勇 裁判官 友納治夫)

<以下省略>

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